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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和33年(う)39号 判決

被告人 阿部良光 外二名

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は、全部被告人等の連帯負担とする。

理由

同(弁護人の)論旨第六(訴訟手続の法令違反)について。

所論は、原判決は原審鑑定人石黒政儀作成の鑑定書を証拠として挙げているが、右鑑定人に対する尋問調書によると、右鑑定人に対する鑑定命令は、本件の証拠である平川愛明および川越信雄作成の捜査報告書添付の現場写真2およびその引伸図に基いて、その撮影位置、陸岸との距離、撮影位置から第五、第六三王丸までの距離の鑑定を命じたものであるのに、右鑑定書をみると、右現場写真2は全々用いず、証拠調を経てない写真機およびフイルム(No.3)を用いて鑑定しているが、このように裁判所が指定交付した物以外の入手経路の判明しない物を用いた鑑定書は無効であつて証拠とすることができるのである、というのである。

そこで、検討すると、鑑定人が鑑定命令に指定されない物を用いて鑑定したからといつて、刑事訴訟法第三二一条第三、四項の要件を充している限り、その鑑定人作成の鑑定書が無効となり証拠能力がなくなるとはいえないのみならず、本件の原審鑑定人石黒政儀作成の鑑定書を証拠とすることに検察官、被告人共同意しているのであるから、右鑑定書は証拠能力がある。しかしながら、右鑑定書に証拠能力があるからといつて直ちに証明力があることにはならないのであつて、右鑑定人が鑑定に用いた写真機が当時使用した写真機ではなく、フイルム(No.3)が当時の現場写真でないならば、右鑑定書は本件の現場の位置決定についての証明力がないことになる。ところが、当審証人石黒政儀(第一、二回)、川越信雄、現場写真フイルム(証第九号)、平川愛明および川越信雄作成の捜査報告書によると、当時使用した写真機はオリンパスシツクスまたはゼノビアであり、右鑑定に用いた写真機は前者であるが、右両写真機はいずれも焦点距離七・五糎であるから、当時使用した写真機が後者であつたとしても右鑑定の結果に変りはなく、右鑑定に用いたフイルム(No.3)も当時の現場写真であることを認めることができ、その他右鑑定に用いた海図、地図も相当なものであると認められるので、右鑑定書は本件の現場の位置決定について充分証明力を有するものである。論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 二見虎雄 後藤寛治 矢頭直哉)

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